2026年7月、AI 関連で気になった話題のまとめ

今月(2026 年 7 月)は AI 関連で結構デカい動きが多かったので、備忘録も兼ねて個人的に気になったものを時系列で整理。

ちょっと Blog のネタがなさ過ぎて更新もサボってばかりなので、たまにはまとめ記事でも書いてみる。今月は AI 関連で結構デカい動きが多かったので、備忘録も兼ねて個人的に気になったものを時系列で整理。

今回まとめた話題の一覧

  1. Kimi K3 が公開され、その性能に世界が驚く
  2. OpenAI のテスト中モデルが Hugging Face にド派手にハッキングをやらかす
  3. DeepSeek 創業者、梁文鋒 氏の投資家向け発言がガッツリ流出
  4. ジェンスン・ファン 氏、突如 X に降臨。初ツイートでオープンウェイト規制反対
  5. オープンウェイト規制反対書簡に署名しなかった Anthropic 社の主張は?

Kimi K3 が公開され、その性能に世界が驚く

7 月 16 日、中国の AI スタートアップ、Moonshot AI が 「Kimi K3」 を API で公開。さらに 7 月 27 日には学習済みウェイトが Hugging Face 上で一般公開されました。

  • 総パラメータ 2.8兆 の Mixture of Experts(MoE)モデル、1 トークンあたりの活性化パラメータは 1,040 億 (104B)
  • コンテキスト長は 1,048,576 トークン。テキストと画像をネイティブに扱うマルチモーダルモデル
  • 公開されたファイルは、公式リポジトリ上で合計約 1.56 TB、全 96 個の safetensors シャードに分割して公開
  • Artificial Analysis の Intelligence Index で 57 点。オープンウェイトモデルでは最高位で、次点の GLM-5.2 (51 点)を大きく引き離した
  • 7 月 17 日に Artificial Analysis が公開した評価では総合 3 位。Opus 4.8 および GPT-5.5 と同等で、Fable 5 と GPT-5.6 Sol に次ぐ性能と評価

米国以外でも最先端(フロンティア級)の AI を作れるのでは? ということで Kimi ショック状態に。

ちなみに、Kimi K3 は、配布ウェイト自体で約 1.4 TB、公式リポジトリ全体では約 1.56 TB になります。実際の推論では、これに加えてランタイム、アクティベーション、KV キャッシュなどのメモリが必要。

長いコンテキストや複数リクエストを扱う必要がある実際の運用環境では、恐らく最低でも 16 基以上の B200 / H200 や複数ノード構成が必要になると推測。Moonshot AI は、実用的な推論効率を得るには、64 基以上のアクセラレータを備えた supernode 構成を推奨しているのでえらいこっちゃ。

これを考えると、自前でホストする場合、16 基レベルの構成でもハードウェアだけで数千万 〜 1 億円規模。64 基レベルの構成にすると 1 億円を余裕で超える可能性が高い。クラウド費用も、16 基クラスなら時間あたり数十 〜 100 ドル程度、64 基レベルだと大幅に高額になる可能性があるので、当然ながら個人で何とかなる話ではありませんが、大手テック企業や国レベルであれば大した額ではないので、この性能のモデルを自前でホストできるとなるとかなりのインパクト。各国の研究機関や企業が独自に評価、最適化、ファインチューニングを行えるため、派生研究や推論技術の開発が加速する可能性があります。

なお、Moonshot 自身は、Fable 5 や GPT-5.6 Sol と比べてユーザー体験に明確な差があることを認めています。また、思考履歴の受け渡し方によって出力が不安定になることや、曖昧な状況で過剰に行動する可能性を制限事項として挙げています。

加えて、Artificial Analysis の評価ではハルシネーション率が 51% と、K2.6 の 39% から悪化したことも指摘されています。逆に言えばこの辺は OpenAI や Anthropic の優位性というか製品開発能力の高さの現れでしょうか。

余談ですが、Kimi K3 はウェイトが一般公開されているものの、独自の「Kimi K3 License」が適用されます。一定規模以上の Model-as-a-Service 事業者には Moonshot AI との別契約が必要になるなど商用条件があるため、「オープンウェイト」といっても無条件になんでも利用できる訳ではない点には注意。

参考リンク

OpenAI のテスト中モデルが Hugging Face にド派手にハッキングをやらかす

7 月 16 日、Hugging Face が 「異常に自動化されたサイバー攻撃」 を受けたと公表しました。

当初、攻撃者の正体は不明とされていましたが、7 月 21 日に OpenAI が自社モデル (正確には GPT-5.6 Sol と未公開モデルを含む「複数モデルの組み合わせ」) の仕業だったと認める事態に。

発表された経緯としては以下の通り。

  • OpenAI はサイバーセキュリティ性能のベンチマークテストのため、高度に隔離したサンドボックス環境に問題のモデル群を置いていた
  • ところが、テスト中のモデル群はその隔離環境から社内サービスの未知の脆弱性を発見し、社内システムを経由してインターネットに到達
  • 自身に課せられたベンチマークテストの答えが「Hugging Face にあるんじゃね?」 と推論し、Hugging Face の本番サーバに侵入してベンチマークのスコアを上げるための情報を取得した
  • Hugging Face は、限定的な内部データと複数の認証情報への不正アクセスを確認し、利用者にアクセストークンのローテーションと最近のアカウント活動の確認を推奨
  • 攻撃ログには 17,000 件を超えるイベントが記録されていた

つまり、目的達成に対する執着心が異常に強く、かつ倫理観はゼロな生徒が、自力で試験を解くだけでは最高の得点が獲れないってことで、試験中にこっそり教室を抜け出して試験の答えを知っていそうな教員の自宅に侵入、試験の答えを探す、みたいなド派手なカンニングをやらかしたってことですね。ヤバいな。

AI 界の重鎮、Yoshua Bengio (ヨシュア・ベンジオ) 氏はこの件について「深く憂慮している」と投稿。管理下のテストで AI エージェントが不正を働く傾向は以前から観測されていたが、実世界に及んだ最初のケースだと指摘しています。

報道をまとめると、まず、このベンチマークでがんばっていた OpenAI のモデル群は、最大限のサイバー能力を測るため、サイバー攻撃に関する拒否傾向が弱められ、本番環境で高リスク行為が行われることを防ぐための仕組みも有効化されていませんでした。つまりかなり無茶しても OK という設定になっていたということですね。

脆弱性を探すテストだったのでセーフガードがあるとテストにならんってのはまぁわかりますね。なので、「モデルが暴走した」=「現在一般公開されているモデル、あるいは今後公開されるモデルにもただちにこういう危険性がある」みたいな話ではないのでそこは押さえておきましょう。

とはいえ、評価用モデル群が自分が置かれている環境の未知の脆弱性を発見した上で、複数の攻撃経路を自律的につないで外部の本番環境まで侵害したっていう事実は、サンドボックスの設計だけでなく、評価時の監視やアラインメントにも課題があるってことが明確になりました。

さらに、TechCrunch が伝えた専門家の評価では、この問題を起こしたモデルの挙動は、「おおむね人間の攻撃者と同様で、従来型の防御で止められた可能性がある」とも指摘されています。

このモデル群は特に隠匿することもなく、数日にわたって派手に動き回ってたみたいで、もっと早く検知されるべきだったという見方も。つまり、このモデル群の攻撃がとても用意周到で人間にバレないように秘密裏に行われたのですごかった、という話ではなく、結構わかりやすい攻撃を仕掛けてきてたんだから防御側でもっと早く検知できれば未然に防げたんじゃないの? という評価もあるみたい。

あとこの話で面白いというか興味深かったのは、Hugging Face はこの攻撃を分析するため、まず複数の商用 API で提供されるフロンティアモデルを使おうとしましたが、攻撃コマンドやエクスプロイトを含む入力がセーフガードに拒否され、分析を続けられなかったとのこと。

仕方ないので、社内環境でオープンウェイトの GLM-5.2 (中国 Z.ai 社) を使用してフォレンジックしたとのことで、米国のクローズドモデルの攻撃に対して、中国のオープンウェイトモデルが防御で働いてるっていうなんか皮肉な感じの結果になっています。

参考リンク

DeepSeek 創業者、梁文鋒 氏の投資家向け発言がガッツリ流出

7 月 22 日ごろ、DeepSeek 創業者の梁文鋒 氏が 5 月 20 日に行った、投資家向けのクローズド会合の文字起こしが拡散しました。

流出した文字起こしは、中国語で約 3 万字、音声 3 時間 44 分。ちなみに、DeepSeek 自体はこの文字起こしが、梁文鋒 氏が話した本物の内容であるとは公式には認めていません。

主な内容としては以下の通り。

  • AGI 到達確率を最大化するため、あえて手を広げない。ToC・ToB の商用化はいずれも技術的ブレイクスルーの副産物と位置づけ、動画生成のようなホットな領域は追わない
  • API 価格は、購入したハードウェア費用を約 10 カ月で回収できる水準に設定。梁氏は、サーバーを 3〜5 年使用する前提でこれを「約 6 倍の利益」と表現 (ただし、これはあくまでハードウェア費用と耐用期間を基準にした単純な説明で、研究開発費や人件費、電気代などを含む会社全体の利益率の話ではない)
  • 中国製 AI チップへの対応を進め、NVIDIA の CUDA エコシステムへの依存は減らしつつある一方、GPU ハードウェア自体は引き続き NVIDIA に大きく依存している。具体的には以下のような主張。
    • NVIDIA の CUDA エコシステム依存は TileLang によって減らしている
    • しかし今後数カ月の購入予定は基本的にすべて NVIDIA である
    • Huawei 950 は 4 基で NVIDIA B シリーズ 1 基相当
    • チップ世代として約 2 年遅れ
    • Huawei から割り当てられる 16,000 基は NVIDIA 換算で約 4,000 基
    • とはいえ、Huawei の供給量は次世代モデルの訓練には不足している
    • 国内エコシステムは約 1 年で実用化できる、という見通しがある
  • チームの安定性が唯一譲れない一線。コア研究者の半数がデータのラベリングに従事。KPI ではなくビジョンで動き、残業はほとんどない
  • 中国の基盤モデル市場は最終的に 3〜4 社に集約される

特に中国の AI 企業がどうやって大量の計算資源を手に入れているのかという部分には以前から興味がありましたけど、文字起こしには、「規制に適合しないカードを一部購入できる」 という趣旨の発言も含まれています (なんかグレーな響き)。ただし、具体的な調達経路や法的評価は明らかになっていないので真偽は不明ですが。

また、自国生産のチップ性能が向上していること、さらにNVIDIA 製 GPU そのものへの依存は続いている一方、CUDA に依存しないソフトウェア環境の整備が進んでいることなどが語られてて興味深い。

別件ですが、中国がレアアースの輸出規制をした結果、日本も含めて中国依存のリスクに改めて気が付き、自前でなんとかレアアースを確保しようとしたりレアアースがなくても何とかなる方法を探して色々なイノベーションが生まれているのと同様、米国が NVIDIA GPU を輸出規制したことで、じゃあ自前で作ったろ、という動きが中国国内で起こり、国を挙げて取り組んでいることでその速度がめざましいっていうのは米国にとっては皮肉。

とはいえ、輸出規制が完全に逆効果というわけでもないことが梁氏の発言からもわかります。計算資源不足が米国と差が付いている最大の要因と認識しており、前述の通り、Huawei 製チップの供給能力も次世代モデルを訓練するには不足していると語られています。つまり、長期的には中国の国産化を促す一方で、短中期では中国企業の AI モデル開発に対して制約にはなってることが読み取れます。

ちなみに、この流出騒ぎは中国国内でも問題になってて、Bloomberg は、DeepSeek が 2 回目の資金調達について、一部の候補投資家に契約手続きを当面停止すると伝えたと報じています。

この文字起こしを巡る報道に対する梁氏の不満が、資金調達停止の一因 (投資家向けにクローズな場で語った内容が思いっきり流出したんだから、まぁそうなってもわからんではない) とされていますが、これは Bloomberg が匿名の関係者の証言として報じたもので、DeepSeek 自身は文字起こしの真偽、資金調達の停止、再開時期のいずれについても公式には発表していません。よって、「資金調達が完全に中止された」 とまでは断言できない状況です。

参考リンク

ジェンスン・ファン 氏、突如 X に降臨。初ツイートでオープンウェイト規制反対

7 月 24 日、NVIDIA の CEO、革ジャンでおなじみの Jen-Hsun Huang(ジェンスン・ファン)氏が X に突如降臨。初ツイートで巨大バズを引き起こす。

25 組織 (その後署名組織数は増加) が署名した公開書簡 「Open Weights and American AI Leadership」 について。

最初の投稿として、@NVIDIA が署名した、オープンモデルがなぜ重要かについての書簡を共有します。

AI はあらゆる産業を変革し、あらゆる企業を動かし、あらゆる国によって構築されるものになります。オープンモデルは安全性とサイバーセキュリティを強化し、イノベーションと普及を加速させ、主権を可能にします。

世界にはフロンティアのクローズドモデルとフロンティアのオープンモデルの両方が必要です。

この書簡は 1980 年代のオープンソースソフトウェアを巡る動きを例に出して、拙速なオープンモデルの規制を控えるよう米国の政策当局に求めているものです。

背景にあるのはこの記事でも最初に紹介した、Kimi K3 の発表を受けて 「中国製オープンウェイト AI モデルの利用を禁じるべきでは?」 という議論が、国家安全保障の文脈で現実味を帯びていたこと。

ホワイトハウス科学技術政策局長の Michael Kratsios 氏は、Moonshot が Anthropic の Fable を大規模に蒸留して K3 を開発し、輸出規制対象の NVIDIA GB300 搭載サーバーを取得、利用したとの疑惑を示しています。

とはいえ、いずれも米政府側の主張であり、不正な蒸留や輸出規制違反が認定・確定したわけではない点には注意が必要。当然ながら Moonshot は蒸留によって K3 を開発したという主張を否定、AI 研究の専門家からも、蒸留だけでは K3 の性能や開発経緯を説明できないだろ、という反論が出ています。

NVIDIA にとってはオープンウェイトモデルだろうがクローズドモデルだろうが、GPU が売れることには変わりないので多少のポジショントークは含みますが、それでも初ツイートを政策提言に使った理由は、規制で市場が縮むことより、AI エコシステムの重心が米国外に移ることへの危機感があると考えれば納得です。

つまり、米国が輸出規制だなんだと足踏みしている間に、世界中の開発者が中国製モデルを使って実装や研究を進めていってしまった場合、事実上の AI デファクトスタンダードは中国製 AI モデルなんて結果になりかねませんので、その辺を危惧しての動きが活発になってきたということでしょう。

参考リンク

オープンウェイト規制反対書簡に署名しなかった Anthropic 社の主張は?

先の話題で触れた、オープンウェイトモデルに対する規制に反対する書簡、署名した組織数などの推移は以下の通り。

オープンウェイト規制反対書簡に署名した組織数の推移
時期 署名組織数 主な参加組織
2026 年 7 月 24 日(署名公開時) 25 組織 NVIDIA, Microsoft, Meta, IBM, Hugging Face, Mozilla, Linux Foundation
2026 年 7 月 25 日 50 組織 OpenAI, Google, AMD, Cisco, Cloudflare, GitHub などが追加で署名
2026 年 7 月 27 日時点 77 組織 --

OpenAI と Google は書簡公開当初の署名者には含まれていませんでしたが、その後、追加で署名しています。一方で、Anthropic はこの時点で署名組織に名前が挙がっていません (地味に Amazon も署名組織リストに入っていないんですけどね)。

そんな中、7 月 27 日に、Anthropic CEO の Dario Amodei (ダリオ・アモデイ) 氏が反論を公開

主張は概ね以下のような内容。

  • オープンウェイトを一律禁止すべきではない
    危険な能力を持たないモデルは、企業・開発者・研究者に利益をもたらす「公共財」であり、Anthropic は全面禁止を主張していない。
  • ただし「オープンだから安全」とも限らない
    ウェイト公開後は安全機構を外せるうえ、利用状況を監視できず、回収もできない。特にサイバー攻撃や生物兵器への悪用は、クローズドモデルより不可逆的なリスクが高くなり得る。
  • NVIDIA 側書簡の楽観論には根拠が足りない
    「公開すれば安全対策の開発が進む」「攻撃者より防御側が有利になる」とは断定できない。とりわけ生物工学 (バイオテクノロジー) 分野では、攻撃準備は短期間でも、防御には数年かかるという非対称性があり得るため、事前の実証試験で判断すべき。
  • 中国製オープンウェイトモデルの米国内利用禁止は的外れ
    米企業による利用を禁じても、権威主義国家による軍事・監視目的の秘密モデル開発や、犯罪者による悪用は止められない。結果的に米国 AI 企業を競争から守るだけになりかねない。
  • 必要なのは「公開・非公開」ではなく、能力と行為に基づく規制
    アモデイ氏が提案するのは以下の3点
    1. 高性能チップ・製造装置の対中輸出と密輸の阻止
    2. 大規模なモデル蒸留の取り締まり
    3. 一定以上の能力を持つすべてのモデルへの強制的な安全性試験
    特に 「3」 に関してはオープン / クローズド / 国籍を問わず適用するべき。

つまり、「オープンウェイトに反対」とか「禁止すべき」なんて主張はしていないし、NVIDIA 書簡における経済的、競争上のメリットには同意しつつも、一方で、オープンウェイトモデルの公開は常に防御側を有利にする、という楽観論に対しては違くね? もっと危険能力を実測して規制対象を決めるべきでしょ。という主張をしていると。

特に Anthropic、というかアモデイ氏が主張している 「オープン / クローズドを問わず十分に高性能なモデルに対する安全性テストの義務化」 なんかは元の書簡の内容とは対立するし、個人的にはまぁどっちの主張にも一理あるわな、って感じなので、この話題が今後どういう動きを見せるのかは注目です。

参考リンク


さて、ということで 7 月はなんか色々な話題がてんこ盛りでした。AI 業界自体、モデルの進化を含めてスピードが速いのでたった 1ヶ月で起こったとは思えない濃度になりますね。たまにはこういう記事も書いてみようかなと思います。

ネタを集めてもらったり、自分が記事に入れたいネタに対するリサーチをお願いしたり、自分が書いた内容に間違いがないかを指摘してもらうのとかは AI にかなり任せられるようになったのでとても助かる。

記事をここまで御覧頂きありがとうございます。
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