ビル・ゲイツ氏が 「マイクロソフトは破綻まで18ヶ月」 と発言したとか言われている件について

ビル・ゲイツ氏が 「マイクロソフトは破綻まで 18ヶ月」 と発言したという内容の記事が話題になっていたのですが、その内容がちょっと引っかかるというか、気になったので調べてみました。

つい先日ですが、ビル・ゲイツ氏が 「マイクロソフトは破綻まで 18ヶ月」 と発言したという内容の記事が話題になっていて、その記事では、あたかもビル・ゲイツ氏が最近のマイクロソフトについて危機的な状況だと認識していると思われるような書き方がされてたんですが、ソースについての記述が該当記事内にはなく、またビル・ゲイツ氏ほどの大物が発言した割には他のニュースサイト等で全く取り上げられていなかったので、気になって調べてみました。

マイクロソフト社エントランスゲート - 出典:ウィキメディア・コモンズ (Wikimedia Commons)

写真は Wikimedia Commons より

結論というか、私が調べられる範囲で調べた結果から言うと、少なくともこの発言は最近の発言ではなく、私が調べた限りでは 2011年 5月 31日付けの China.org.cn に掲載された、Corporate vice president of Microsoft and chairman of Microsoft Asia-Pacific Research and Development Group (マイクロソフト副社長 兼 アジア太平洋研究開発グループ会長... で合ってるかな?) の Ya-Qin Zhang 氏に対するインタビュー内で触れられたビル・ゲイツ氏の発言であり、これは別にマイクロソフトが本当に危機的な状況だから言っているわけではなく、「そう思って新しいことにどんどんチャレンジしてけよ」 的な訓示? としての発言のようですね。

ちなみに、China.org.cn の記事というのは下記。

記事自体は 「Copycat culture drags down China's IT innovation (コピー文化が中国の IT イノベーションを阻害する)」 と題されたもので、確かにマイクロソフトにはイノベーションが必要だよねっていう話からスタートしているのですが、主題は、そのイノベーションを中国から起こすことはできるの? という話を Ya-Qin Zhang 氏に聞いてみたよという内容になっています (間違ってたらご指摘ください)。

で、該当するビル・ゲイツ氏の発言らしき部分を抜き出してみると、下記のように書かれています。太字部分がビル・ゲイツ氏の発言とされている部分。

But now few people know him and DEC has gone. It shows that the IT industry is full of changes and crisis. If you don't innovate or subvert yourself, maybe your business will disappear in several years. As Gates once famously said, "Microsoft is always away from bankruptcy only 18 months." From my point of view, not only for Microsoft, but also for all the IT industries, they need to make breakthroughs themselves and subversively make innovations. New things and subversive technologies will emerge every five or 20 years successively followed by new industry models and a batch of new companies.

Copycat culture drags down China's IT innovation : China.org.cn から引用

簡単に言えば、「次々とイノベーションが起こる IT 業界においては常に改革を続けていかないとあなたのビジネスは数年で消えてしまうよ」 という文脈で、「ビル・ゲイツの有名な台詞に、"マイクロソフトは常に倒産まで 18ヶ月しかない状況だと思え (Microsoft is always away from bankruptcy only 18 months.)" って言葉があるでしょ」 という感じでこの言葉が出てきます。

そもそもこの記事がもう 3年前以上の記事だし、ビル・ゲイツ氏の発言もあくまで 「そういう危機感をもって取り組みましょうね」 と言っているに過ぎません。

なので、ライブドアニュースの記事に書かれているように、まるで最近のマイクロソフトに対してビル・ゲイツ氏が危機感をもって発言した言葉、さらに 「マイクロソフトが 18ヶ月で破綻するような状態だとビル・ゲイツが語った」 と読み取れるような書き方はミスリードかと思いますし、アクセスを稼ぎたいだけの、所謂釣り記事といってしまっていいんじゃないでしょうか。まぁ皆さん、釣りってわかってて反応してるのかもしれませんが......

書籍でもこの発言に触れられてた件

また、2013年の 9月に発売されている 「Modern Oriental Corporate Culture: A Case Collection」 という書籍 (英語) でも下記のように取り上げられています (リンク先は Google ブックスによる書籍内検索結果)。

この書籍は東洋における近代企業文化についてのケーススタディを紹介する書籍のようですが (中身読んでないので詳しくは知りません)、その中で、

6.3 Excel at "Going Through the Narrow Door"

Novelist Yu Hua said, "Regardless of the situation, whether in writing or in life, the correct start is to enter the narrow gate. Do not be fooled by the wide door, for that path is short". World-class entrepreneurs have an ingrained sense of crisis. Bill Gates said, "Microsoft is always only 18 months away from bankruptcy"; Andy Grove insisted on doing business according to the rule of the "survival of the anxious"; and Lee Kun-Hee cautioned that, "Samsung is always only one step away from bankruptcy".

という感じで、中国の作家、余華 (ユイ・ホア / Yu Hua) 氏、アメリカの実業家、アンドルー・スティーヴン・グローヴ (Andrew Stephen Grove) 氏、サムスン電子会長の李健煕 (Lee Kun-Hee) 氏らの言葉とならべて、世界的な起業家もこう言ってるぞ的にビル・ゲイツ氏の "Microsoft is always only 18 months away from bankruptcy" という言葉が引用されています。

これも China.org.cn のインタビュー記事と同じような文脈で発言が引用されている例ですね。ただ、China.org.cn の記事の方がこの書籍の発売より 2年以上前です。

ビル・ゲイツ氏本人がいつ発言したかは不明

ただ、この言葉をビル・ゲイツ氏がいつ、どこで言ったのかという件については、ちょっと調べた範囲ではわかりませんでした。この言葉で調べて出てきた記事や文章は、「ビル・ゲイツ曰く」 って感じで書かれているものばかりで、その発言がいつされたものなのかまでは書かれていませんでしたので、多分、社内に向けて言ってて、それが伝聞で広まってみたいな感じなんですかね。

ちなみに、「18ヶ月」 という期間については、よく半導体業界やコンピュータ産業界で言われる、「CPU の処理速度は 18ヶ月あたり 2倍の割合で向上する」 という話に関係している (つまり 18ヶ月ごとにそのくらいコンピュータの性能は向上するんだからソフトウェアもそれに追いつかないと駄目だろ的な) のでは? と思いますがどうなんでしょうね。

過去にもこんな記事が

余談ですが、ライブドアニュースに関しては、過去 (といってもつい先月ですが) に @dragoner_JP 氏の下記のようなツイートが回ってきて、なんだろと思って読んだことがあったんですけども......

氏の言葉使いはあまりお上品じゃないですので、この言い方自体には賛同しかねますが、ちょっと自分でも調べてみて下記のように感想を述べたことがあります。

上記分野は私の専門分野ではないので深く言及はしませんが、ソースを示さない点、何年も前の記事をあたかも今日の話題のように取り扱う点は今回も同じですね。

バイラルメディアが流行りだかなんだか知りませんが、大手企業が、しかもニュースサイトを名乗って配信するのであれば、もうちょっとまじめに記事のクオリティをチェックした方がいい気がします。

記事をここまで御覧頂きありがとうございます。
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