別にフリーランスを目指す方々を相手に先輩風を吹かして偉そうなことを言いたいわけではなく、私もフリーランスを経験したひとりとして、思い返せばこういうことが実は大切だったんじゃないかなという、ひとつの考え方をまとめておきます。
フリーランスという 「流行のワード」 を利用して情報商材を売ったりしたい人たちは別として、本当にフリーランスとして仕事をしていきたいと考えている人にちょっとでも引っかかればいいかなと思って書いていますが、あくまで私個人の経験から書いているだけで、別にこれが正しいとかそんな話ではありません。もし興味があれば軽い気持ちで読んでみてください。
ここでいう 「フリーランス」 は、所謂、Web 系のお仕事をするフリーランスを想定しています。例えばフロントエンドのお仕事をするデザイナーさんとかエンジニアさん、あるいはサーバサイド、バックエンドのエンジニアさん、一般的にプログラマと呼ばれるような人たちで、何かしらの方法でクライアントから請負契約や委任契約で仕事を受注し、成果物を納品したり技能を提供したりして生計を立てる人です。
所謂フリーランスエージェントっていうんですかね。企業との継続的な取引案件を斡旋してくれるような会社さん経由でどこかに常駐してお仕事をする場合は、派遣に近い感じになるので少し事情が異なるかもしれませんし、業界や職種によってひとくちにフリーランスといっても必要な技術、能力、仕事の受注方法みたいなものには結構な差があります。
その前提で、具体的な技術習得やスキルアップの方法とか、仕事の受注の仕方、みたいなテクニック的なことを私の狭い経験だけで書いてもあまり意味がないので、もっと本質的な、というとなんか偉そうですけども、ベースとして知っておいた方がいいんじゃないかなという点をまとめました。
目次
つらつらと書いたので各項目の順番に意味はありません。
- キャッシュフローの大事さを理解する
- 納期を守り、仕事を完遂する
- クライアントの期待を少しだけ上回る
- 法律と税金の知識を身につけ、自分の身は自分で守る
- 単発の売上より持続可能かを重視する
- 年間に必要な金額の半分を目標にお金を貯める
- すべての時間を仕事に使わない
- 適度な自信と、現実を直視する冷静さをもつ
- 英語への苦手意識をなくし、原典に当たる意識をもつ
- 心と体の健康を維持する
1. キャッシュフローの大事さを理解する
キャッシュフローっていうのはつまり「お金」の「流れ」のことなわけですけども、フリーランスにとってキャッシュフローの管理は非常に重要です。
例えば普通の会社員として働いている場合、今月働いた分のお賃金は翌月の 10 日なり 15 日なり、日付けは会社によるとは思いますが翌月のどこかには確実に手元に入ってきますね。
なので家賃やクレジットカードの引き落としなんかも、お給料日との兼ね合いで必要な金額を口座に残しておけば問題なく回っていくわけです。極端な話、お給料日の前日に口座の残高が 10 円くらいになっても翌日には決まった額が振り込まれるから問題なし。
しかし、フリーランスでお仕事をすると、お仕事の対価が支払われるタイミングは、請求書を発行したタイミングに左右されますのでそう単純にはいきません。
例えば、「代金は納品した月の月末請求で翌月末のお支払いです」 という約束で今月何かのプログラムを開発するお仕事をしたとして、納品が月をまたいだ 5 日だったとします。もう少し具体的にいうなら、7 月 1 日に受注、7 月いっぱいを開発に使い、検収などを経て 8 月 5 日に納品が完了したなら、請求書が発行できるのは 8 月末ですから、入金は 9 月末ということになるわけです。
稼働したのは 7 月なのに、実際にお金が手元に届くのは 9 月末ってことですね。もしこの案件しか手がけていなくて、他に 7 月末に請求できる案件が何もなければ、8 月末には口座に一銭もお金が振り込まれないことになります。
「お金が振り込まれるまでが案件です」 なんていうと、陳腐な校長先生のスピーチみたいになってしまいますけども、フリーランスになったばかりだと意外と忘れがちです。受注 (あるいは発注) した時期や金額ではなく、仕事が完遂され、実際にいつ、いくら入金 (あるいは支払い) が行われるのかを間違いなく把握し、事前に計画を立てる癖はつけた方がよいでしょう。
キャッシュフローの管理に失敗すると、数百万の売掛金がありながら口座にはお金がない、みたいなことが普通に起こります。自分の生活費が足りないだけならしばらくの間、キャベツとかパンの耳だけ食って乗り切ればよいですが、養うべき家族がいたり、家賃や重要な支払いができなくなれば破綻しますからね。
2. 納期を守り、仕事を完遂する
当たり前だろと思われるかもしれませんが、フリーランスとしてお仕事をしている人でも納期を守れない、案件の途中で連絡がつかなくなってしまう、みたいな人は結構いるようです。
「いるようです」 と書いたのは幸いにして私が今までお仕事でご一緒したフリーランスの方々にそういう方はいなかったので、実体験として知らないからですが、そういうお話は近しい同業者さんと話をしていても結構耳にしますので、そんなにレアなケースではないのではないかと思っています。
フリーランスにとってプログラミング能力やデザイン力といった 「技能」 が一番重要と考える方は多いと思います。運転免許がないのにタクシードライバーになろうと思ってもなれないのと同様、仕事をするために最低限必要な一定の技能や知識はありますが、一方でタクシードライバーとして生計を立てるのに F1 レーサーのような運転技術が必要かといえばそんなことはないように、「技能のみ」 でフリーランスとしてやっていけるかが決まるわけではありません。
売れっ子の作家や漫画家さんのように、その人以外には実現不可能なものがある場合を除き、締め切りを守らない人に我慢してお仕事を依頼し続ける人はいないでしょう。同じような技術や能力を持ったフリーランスがいた場合、継続的にお仕事をお願いしたいと思うのは、お願いしたことを、お願いしたクオリティで、約束した期間内に納品してくれる方です。
もちろん、何らかの理由によって納期に間に合わなくなる場合もあるでしょう。それなら早めに事情を説明し、納期の変更などを交渉する必要があります。ギリギリまで自分からは何も言わず、あるいは依頼主からの進捗確認にも大丈夫ですと返答し続けた上で、納期間際になって 「やっぱり間に合いませんでした」 みたいなことを言う人はフリーランスとして継続的にお仕事を発注してもらうだけの信頼を得ることは難しいでしょう。
逆にいえば 「約束を守る」 という普通に考えれば当たり前だろ、と思われることをきちんとやり続けるだけで、他のフリーランスより頭ひとつ抜け出せる可能性があると思えば安いものです。
ちなみに納期を守るというと、どんなに厳しい納期だろうと、与えられた納期に向かってとにかく頑張る、みたいなイメージを持つ方もいるかもしれませんが、実際には、まず受注する前の時点で下記を徹底することが大事です。
- 受注 (納期確定) 前に工数と工期を正しく算出する
- どう考えても無理な納期を設定されそうになった場合は全力で交渉する
- 交渉にも応じてもらえないし、納期的にこりゃ無理だなと思ったらお仕事をお断りする勇気を持つ
納期みたいな約束事は、自分から宣言した上でそれをしっかり守る、というのを繰り返すことで相手からの信頼を得ることができます。納期の目安を発注者から指定されるのは普通だと思いますが、最終的な納期は自分自身で判断して伝える癖をつけるとよいと思います。
1番目を正しく見積もるのにある程度の経験が必要なので一朝一夕にできるものではないと思いますが、こういうのは経験のある同業者の方なんかに教えてもらえる環境があるとよいかもしれません。
3. クライアントの期待を少しだけ上回る
過剰に 「お値段以上」 である必要はありませんが、「払った金額に対して成果が見合っているのか」 というのは発注者が最も気にするところです。
これは単純な 「結果」、つまり納品されたプログラムなり、デザインなりの品質、完成度はもちろんですが、案件全体を通したプロセスというか、やりとりの中で感じた印象なんかも含みます。そして実はこのプロセスの部分の方で違いを出す方が簡単だったりします。
例えば Web ページのデザイン作成であればデザイン自体の完成度はもちろん、デザインデータの使いやすさ (例えば PSD でデザインが作られているならレイヤーの分け方やレイヤー名の付け方が他者からみてもわかりやすく、きちんと整理されているとか) みたいな部分は 「納品物の完成度」 に当たりますが、この辺は仕事としてお金をいただくに際してはできていて当たり前というか、大きな差が出にくい部分です。
しかし、連絡に対する返信の早さだったり、デザイン作成の過程でこまめに進捗を報告してくれるとか、疑問点なんかは素直に質問してくれる、ここはこうした方がよいと思うがどうか、みたいな相談や提案も早めに、かつクライアントやユーザー視点でしてくれる、といったやりとりの速度や頻度、コミュニケーションの質、みたいな部分は人によって結構な差が出やすいですし、かつ意識して差がつけられる点です。
なんでそういうことが差になるかっていうと、発注者って基本的に不安なんですよ。勝手知ったる間柄、みたいな長年お付き合いしている取引先でもない限り、実際に納品されてみるまではその人に頼んだのが正解だったのかわからないわけです。なので安心が欲しい。
何か連絡してもレスポンスが遅い、進捗はこちらから確認しない限り自分からは全く報告してこない、曖昧な部分を曖昧なまま形にしてきて、確認したら 「いやぁよくわからなかったんでそこは適当にやってみましたけど違いました?」 みたいなことを納品間際にいう人とか、発注者の側にたって考えれば安心できないですよね? 全体のスケジュール管理もあるし、次の工程のアサインとかもしてるんだぜこっちはよ、みたいになるわけです。
だから発注者が安心して任せておけるようなコミュニケーションを心がけるだけで、「あぁこの人に頼むと安心だからまた頼もう」 ってなりますし、逆に発注者を不安にさせる仕事の仕方をしていると、納品物自体のクオリティは合格ラインでも、「この人に頼むと精神的に疲れるからやめよ」 ってなってしまう場合もあります。
当然人間対人間のことなので、性格的に合う合わない、相性みたいなものもあり、駄目なときは何やっても駄目ってことで時には諦めも肝心ですが、発注者の立場で考えたときに、ここ先回りしといてあげたら助かるんじゃないかなとか、ここは早めに仕上げて確認しといた方が次の工程に進みやすいよね、みたいなことを考えて行動するっていうのはプラスになると思いますよ。
4. 法律と税金の知識を身につけ、自分の身は自分で守る
世の中、大切な知識や情報は能動的に調べにいかないと手に入らないというのが常です。
例えば今、発注元から提示されてあなたの目の前にある業務委託契約書の内容が妥当なのか、自分にとって著しく不利になる条件がこっそり紛れ込んでいないかといったことは、契約する前に自分自身で調べなければなりません。
発注元が 「この条項はあなたに不利ですがこちらの事情でいれてありますんで」 なんてバカ正直に教えてくれたりはしません。何食わぬ顔で 「支払いは請求月の半年後」 とか書いてあるかもしれません (発注者の資本金規模によっては 「下請法 (下請代金支払遅延等防止法)」 違反です)。
あるいは著作権譲渡契約において、「著作権法第27条及び第28条の権利を含む」 という記述があるかないかでどういうことが起こりえるのか、といったことなど、法律の専門家のような知識を持つ必要はないにしても、ある程度自分で調べて知っておかないと気がつかないうちに不当な条件での契約を強いられているといったことも起こりかねません。
これはフリーランスにお仕事を発注する人には悪意のある人が多いから注意した方がいいよ、という話ではありません。単に無知や業界的、あるいは会社的な慣習 (法律に反する慣習ってなんだよっていうのはあるとしても)、よく理解せず他者が作った契約書のひな形を使い回しているなどといった理由で、まったく悪気なくそういう条件が紛れ込んでいる場合がありますよという話です。
ある程度の規模の会社で働いている人なら、よくわからない契約書は全部法務担当に回しておけばリーガルチェックして投げ返してくれるのであまりその辺を考える必要はないと思いますが、フリーランスはすべて自分で確認しなければなりませんし、発注者からの要求や行為のどれが正当で、どれが不当なのかを事前に把握しておかなければ、いざというときに自分の身を守ることができず、最悪の場合、法律的に明らかに不当なことをされているのに泣き寝入りみたいなことになります。
税金に関しても同じです。信頼できる税理士さんと契約してアドバイスをもらうのも手ですが、最低限、正しい税務の知識を身につける努力はした方がよいと思います。世の中には節税と称して黒に近いグレーな手法を吹聴するような人もいますし、税務署さんに突撃されてから 「あの人が節税だって言ってたので」 とか言い訳してもその人が何か責任をとってくれるわけではないですからね。
ちなみに、節税しつつお金をプールできるような仕組みはうまく利用しましょう。例えば小規模企業共済とか、iDeCo (個人型確定拠出年金) なんかは手軽に利用できる方法なのでお薦めです。
正しく情報リテラシを鍛え、自分の身は自分で守りましょう。
また、身を守るとは少し違うかもしれませんが、著作権やソフトウェアライセンスに関する知識なんかはフリーランスとして仕事をする上で知らなかったでは済まない知識ですし、景品表示法 (不当景品類及び不当表示防止法) や薬機法 (医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律) など、業務によっては確実に知っておかないといけない知識もありますから、きちんと学習しておく必要があります。
5. 単発の売上より持続可能かを重視する
「フリーランスになって 6ヶ月目で今月は 100 万円達成しました!」 みたいな話は注目されがちですが、単月である程度の金額を受注するのは実はそんなに難しくありません。重要なのはそれを長期にわたって継続できるかどうかです。
たまたま案件の受注時期や納品時期が重なったりして、受注した額や発行した請求書の額だけみれば、「今月はすげぇ請求額だな」 みたいになることはあるでしょう。しかし翌年も同じように受注できるのか、もっといえば、それを 3年、5年、10年と続けていけるかは全く別の話で、フリーランスとして長期に生き残っていくというのが最も難しいことです。
ちなみにフリーランスの生存率というのはデータをみたことがないのでわかりませんが、2006 年版の中小企業白書によると、個人事業所の生存率は、開業初年度で平均 62.3% だそうです。個人事業所が 100 事業所、新規に開業したとして、この資料にあるデータから単純計算すると 5 年後に生存している事業所の数は約 26 事業所になります。10 年後だと約 12 社。
中小企業白書のデータは製造業の事業所、かつ従業員 4 人以上の事業所を対象にしたデータなのでフリーランスにそのまま当てはまるかといわれればそんなことはないと思いますが、長期にわたって事業を継続していくのは難しいということはわかるんじゃないかと思います。
これは仕事の仕方にも影響を与えます。短期的にはお金になるけれど、長い目で見たときにあまり自分のプラスにはならないなと判断したお仕事は勇気を持って断ることも時には大切です。
「月に○万円稼ぐこと」 を目的にしてはいけません。ライフスタイルや働き方、その他なんでもよいですが、何か実現したいゴールがあって、そこに到達するのが本来の目的で、そのために必要な手段のひとつとしてフリーランスという働き方だったりお金があると思います。
完全に余談、かつ極端な話ですが、不誠実な商売の仕方、例えば人を欺したり、炎上商法だので一時的に数百万か数千万円稼いだとしても、その程度の額では人生あとは遊んで暮らせる、つまりそれで勝ち逃げみたいな話にはならないでしょう。
最近は FIRE (Financial Independence, Retire Early movement) ムーブメントみたいのがよく話題に挙がりますが、FIRE 可能な貯蓄額って、必要な年間生活費の 25 倍が目安ですよ (年利 4% で資産運用可能としてその利回り部分だけを使って生活することで元本が減らない額)。つまり、年間 500 万円で生活する人なら 1 億 2500 万円ですからね。そんくらい一発で貯蓄できるような稼ぎ方ができるなら止めはしないですけども、普通は一時的に数百万稼いだところで、翌年以降も働き続けなければなりません。一時的な収入のために自分の評価を下げるようなことをやれば、長期的には損をすることの方が多いでしょう。
もちろん、きれい事では飯は食えないし、最低限稼がなきゃいけないお金っていうのは人それぞれあると思います。私だって自分のためにならなそうどころか評価を下げかねないクソみたいな仕事でも 5 億円あげるっていわれれば心が揺らぐでしょう。ただ、近視眼的に目先の利益に飛びつくのではなく、「この仕事の仕方って持続可能かな」、「長期でみたときにメリットの方が大きいかな」 みたいなことは常に考える癖はつけといた方がいいんじゃないかなと思います。
なので、フリーランスで 10 年やってます、みたいな人はそれだけで尊敬に値すると思いますよ。もちろん、人生に再現性はないので、その人のやり方を真似たら同じようにうまく行くとは限りませんが、同じつながるならフリーランスとして長い期間、生き残っている人とつながって交流した方が学びが多いと思います。
6. 年間に必要な金額の半分を目標にお金を貯める
世の中お金ですべては解決しませんが、お金に余裕があることで得られるものはたくさんあります。そのひとつが 「選択肢」 です。
例えば今月の家賃の支払いにも困るほどお金がなければ、目の前にやってきた仕事をとにかく掴むしかなくなります。当然、案件を選んでいる余裕はなく、安い金額でもとにかく案件を回して、多少理不尽な要求にも我慢して口座にお金が振り込まれるのを待つしかありません。
しかし残念ながら安い仕事だけをたくさんこなす人のところには不思議と安い仕事しかこなくなるの法則がありまして (当方調べ根拠なし)、結局は薄利多売、寝る間も惜しんで案件数をこなさなければならなくなります。
結果として案件回すのに精一杯で新しいチャレンジやスキル向上に回す時間がなくなり、安い仕事しかできなくなる、という負のスパイラルに陥ります。仮にいい案件にかかわれるチャンスが近づいてきたとしても、安い仕事を回すのに手一杯でスケジュールが空いていなければチャンスをものにできないかもしれません。
そうならないためにも、最低 2 ~ 3ヶ月程度、できれば半年間くらいは仮に案件が受注できなくても生きていける程度のお金は口座に残しておいた方がよいでしょう。お金に余裕があれば案件を選ぶという選択肢が持てます。案件を選ぶ余裕があれば、自分にとってプラスになる案件に絞ることができますし、腰を据えて案件に取り組むことができます。
もしまだあなたが会社員などで、これからフリーランスになりたいと思うなら、会社員でいる間にお金を貯めましょう。もうすでに会社をやめちゃったという人は頑張ってそのゆとりが作れるまでは節制しましょう。
必要な生活費はその人の家庭環境や生活環境によって変わります。独り身で都心の一等地に住んでいるわけでもなければ貯めるべき金額のハードルは低いでしょうけども、配偶者や扶養するべき家族がいたりすれば必要な金額は増えます。
なので一律でいくら貯めれば安心ということはないと思いますが、少なくとも 「成功したければ背水の陣で取り組め」 とか 「会社員を続けながらフリーランスなんて甘い、今すぐ会社を辞めろ」 みたいな無責任な声は無視して冷静に行動するようにしましょう。基本的に追い込まれた状態でよい結果が出るケースは希です。
ちなみにお金を貯める方法は何でもいいですが、流動性、つまりいざというときにすぐに換金 (現金化) できるかについては意識しましょう。例えば iDeCo でいくら積み立てていたとしても、そのお金は 60 歳になるまで引き出せませんから、困ったときにすぐに現金に換えられません。iDeCo という仕組み自体は利用すべきですが、緊急時用の貯蓄方法としては向いていないということです。
不動産なんかも換金はできますが即座にはできないでしょう。当然、現金で持っておくのが一番早いですが、銀行口座にいくらお金を預けておいてもお金は増えないので、ある程度の現金を確保したら、それ以外は投資信託などリスクが比較的低い金融商品に投資しておく (一般的な投資信託などなら数日内に現金化できますし)、みたいなマネーリテラシは必要です。
7. すべての時間を仕事に使わない
これは先に書いた 「単発の売上より持続可能かを重視する」 や 「年間に必要な金額の半分を目標にお金を貯める」 で書いた内容とも少し重複するんですが、フリーランスで長く活動するためには稼働率が常に 100% にならないようにうまくセーブしつつ、空けた時間で自分の名前を売るための活動をしたり、新しい技術や手法に触れたり勉強したりする時間をとるように心がけた方がよいと思います。
黙ってても永久に仕事がもらえるような強大なコネがある人はともかく、基本的にフリーランスへの仕事はある程度目立ってる人のところに集まりがちなので、生き残るためには何かしらの方法で名前を売らないといけませんし、加えていざ声をかけられた時に 「今はいっぱいいっぱいで動けませんごめんなさい」 とならないようにしておかないと折角の大きなチャンスを逃すこともあります。
だからブログを書く、勉強会やセミナーに参加する、あるいは登壇する、Twitter のような SNS や業界関係者のコミュニティで作品を公開する、オープンソースコミュニティに貢献するでも何でもいいんですが、自分の名前や存在、こんなことができますよっていうことを認知してもらえるような活動に使える時間的な余裕と、声がかかったときに即対応できるスケジュール上の余白を作っておくことは結構大切だったりします。
個人的な考えですが、フリーランスとして働く上で絶対に避けたい三大愚策というのがあって、それは、
- 安い仕事をする(安売り)
- 長時間営業(24 時間、365 日対応みたいなことで顧客をつなぎ止めるみたいな)
- 作業量で稼ぐ(作業単価より量を重視する、所謂人海戦術)
なんですけども、これをやってしまうと常時稼働率 100% みたいなことが起こりますし、フリーランスって基本的に動けるのは自分 1 人なので、物理的な限界もすぐにきてしまいます。さらにこの状態でお金的にギリギリ回ってますという状況になってしまうと、もう稼働率を落とすことすらできなくなって詰みます。
ということで、できるだけ単価の高い仕事を選びつつ、稼働率 100% にしなくても最低限必要な売上が立つように持っていきながら、前述した自分を売るための活動に時間を回すっていうのを意識するといいんじゃないかなと思います。
8. 適度な自信と、現実を直視する冷静さをもつ
人間誰にも初学者の時期ってやつがあります。完璧なソースコードを書けるようになってから案件を受注しようと思ったところで完璧なソースコードなんか書ける日は永久に訪れませんし、案件を受注することもできません。
あまりにも自分の持っているスキルとかけ離れた、自分の能力では仕事を完遂できるはずもないような案件を噓ついて受注するのは詐欺に近いのでやっちゃ駄目ですけども、現状の自分の能力で 「少し背伸びすれば何とかなりそう」 という案件であれば思いきってチャレンジすることも大切です。
以前、別サイトのコラムにも同じようなこと書かせて頂いたことがあるんですが (参考リンク)、その時の自分の能力に対して、少しだけ背伸びをしないと乗り越えられなそうな事柄にチャレンジすることで得られるものって結構大きくて、そのためには自分の能力に対して 「適度に」 自信を持つことが大事です。
あくまで「適度な自信」 ですよ。根拠のない自信過剰はいけません。
同時に、現実を直視し、受け入れる冷静さも必要です。
人間調子がいいときは周りのこととか気にせず前を向いて進んでいけるんですが、思ったようにいかなかったり、仕事が減ってきたりすると自分の至らなさを棚に上げて外部のせいにしたがったり、他人を羨んだりしがちです。俺の能力を評価できないクライアントが悪い、私より実績のないあの人の方が目立っているのは気に入らない...... etc
昔読んだ何かの本で企業が衰退する時は 「リスクの過小評価と問題点を直視することの拒否 (要するに現実逃避ですね)」 という段階を経て 「一発逆転思考」 に陥り、終焉っていう過程を踏むことが多いって書かれていたのを覚えていますが (あとで調べたら 「ビジョナリー・カンパニー 3 衰退の五段階 / ジム・コリンズ氏 著」 でした)、うまくいっていないときにその原因や、やるべきことから目を背けるのは現実逃避の段階にいる危険な状態です。
この段階で冷静に、今の自分に何が足りていないのか、導き出した打開策に対してリスクとそれによって得られるメリットは何か、といったことを客観的に検証し、やるべきことをやればリカバリーできる可能性は高いですが、とにかくデカい案件さえ受注できれば一発逆転だぜ、みたいな思考に入るともう詰んでる可能性が高いです (ま、そんなこといいつつ私も普段は 「宝くじ当たんねぇかな~」 とか 「5,000 兆円欲しい」 とか言ってるのでどうかと思いますが)。
基本は楽観的に、しかし常に最悪を想定して備えておくという姿勢がフリーランスには必要だと思います。
9. 英語への苦手意識をなくし、原典に当たる意識をもつ
今の時代、英語は必須ですよね~ なんて偉そうなことをいう気は全くございません。私も英語得意じゃないし。ただ、英語で書かれた文章を見た瞬間に脳みそが読むことをシャットアウトするような、英語に対する苦手意識に関しては克服しておいた方がよいと思います。
分野にはよりますが、基本的にフロントエンドでもバックエンドでも、Web 系の技術や最新のトレンドというのは英語圏発祥が多く、情報量も圧倒的に英語で書かれているものが多いというのは現実です。
Web 標準技術の仕様書、プログラミング言語や各種フレームワークの公式ドキュメント、あるいはチュートリアルなど学習用のコンテンツも英語版が原典となり、翻訳版を公式に用意してくれている場合や、有志の方々が作成してくれている場合があるにしても、それが常に最新の情報と同期できているかはわかりません。
誰かが翻訳してくれるまではその情報にアクセスできない、となると時間的なロスが生まれますし、仮に翻訳された内容が正しくなかったり、古かった場合、最悪の場合は苦労して間違った知識を身につけてしまうことにもなります。
また、誰かが日本語で書いた解説記事を読んで理解するというのも悪くないと思いますが、簡単にいえばそれは 「又聞き」、つまり誰かの話を間接的に聞くみたいなものです。直接自分で原典に当たり、苦労してでも読み解いた方が、理解の解像度は上がるでしょう。その習慣、あるいは理解度のちょっとした差が、数年後に大きな差になって表れるというのはよくあることです。
10. 心と体の健康を維持する
規則正しい生活、適度な運動とストレスを解消する手段 (これは趣味でも何でもいいんですが) は意識した方がよいです。まぁこれはフリーランスじゃなくても同じだとは思いますが、怪我や病気をしても有給休暇などの仕組みである程度はなんとかなる会社員と異なり、フリーランスは自分がぶっ倒れたら終わり、休んだらその分の収入が消し飛ぶっていう働き方であることを考えれば特に。
一般的な会社員のように 「9 時~ 17 時で出社」 みたいな、半ば強制的に仕事のオンオフが切り替えられる働き方と異なり、フリーランスの場合は納期さえ守っていれば基本的には自由裁量で働けます。それがフリーランスのメリットでもあるんですが、逆にいえばある程度自己管理能力が高い人でないと生活習慣がめちゃくちゃになりがちです。
極端な話、夜中に仕事して昼は寝てる、食事は 1 日に 1 食のみ、みたいな生活が習慣になってしまうこともあるでしょう。
20 代とか若い人は徹夜しようがカップラーメンばっか喰ってようが若さでカバーできるのでなんともないと思うかもしれませんが、それで何とかなるのはある年齢までということを忘れずに。「俺、いくら食べても太らないんだよね~」 とか言ってた自分をぶん殴りたくなる日がいつかくるよ。
あと、私の場合は性格的な問題なのか、飲んだり食べたりするために外出したりとか、人とワイワイ話したりみたいなことにそれ程執着がないといいますか、ひとりでいることにあまり苦痛を感じない質なんですけども、会社員生活が長い人とか、仕事場で同僚と会話しながらチームで仕事するのが当たり前、仕事が終わったら飲みに行って...... という生活リズムがある意味ストレス発散になっていました、みたいな感じだと、フリーランスになってひとりで仕事しないといけなくなったときに、その孤独感的なものが知らないうちに大きなストレスになっちゃうなんてこともあるかもしれません。
自分の性格的な特性なんかも理解した上で、働き方とかを設計した方がいいかもしれませんね。
ということでなんかダラダラと書いてしまいましたが、もしこれからフリーランスを目指そうと思っていたり、フリーランスになったばかりの方がいたとして、そういう方々に何かひとつでも役に立つ部分があれば幸いです。
「スクールでは教えてくれない」 とか書いて、いや、スクールでこの程度のことは全部教えてくれましたよ、みたいなツッコミがくると恥ずかしいんですが、まぁあれです、今どきのフリーランスを目指す方々がどういう感じで業界に入ってくるのかを全く知らないで書いていますのでご容赦ください。
ちなみにこの記事、実は 2 年くらい前に一度書いて下書き状態で放置されてたのを発見し、折角なのでと加筆して仕上げて今回公開したものです。なんでその当時こんなネタを書こうと思ったのか覚えていないのでよくわかりませんが、まぁとりあえず公開して供養できたのでよかったです。
参考リンク
インプレス社が刊行する 「できるシリーズ」 が 25 周年を迎えたことを記念して、同社が運営するメディアサイト 「できるネット」 で行われたリレーコラム企画で書かせて頂いた記事。「適度な自信と、現実を直視する冷静さをもつ」 セクション参照。